家賃滞納者に対する建物明渡手続

家賃滞納者に対する建物明渡手続きの流れ

1 契約解除

家賃滞納を理由に賃借人を退去させるためには、賃借人との間の賃貸借契約を解除する必要があります。 解除するための条件や手順を誤ると、解除が無効となって、改めて手続きしなければならなくなり、家賃滞納が長期化してしまいます。条件や手順をしっかりと確認した上で手続きしなければなりません。

(1)契約解除するための条件・手順

Step1 賃貸人・賃借人間の信頼関係破壊
賃貸借契約を解除するためには、前提として賃貸人と賃借人との間の信頼関係が破壊していることが必要です。「信頼関係が破壊している」と言えるかどうかは、諸々の事情が判断されますが、1か月程度の滞納だけでは信頼関係破壊とは言えません。3か月以上の滞納や他の事情がなければ、信頼関係破壊とは言えず、賃貸借契約を解除することはできません。
Step2 相当期間を定めて催告
賃貸人と賃借人との間の信頼関係が破壊していたとしても、賃貸借契約を解除するためには相当期間を定めて催告(督促)しなければなりません(民法541条)。催告して、それでも相当期間内に支払わなかったときに限り解除することができるのです。「相当期間」は、一般的に1〜2週間程度あれば十分と言えます。従いまして、催告せずにいきなり解除の通知を出しても解除を認められないこともありますので、ご注意下さい。
Step3 解除の意思表示
解除できる状態になれば、解除する旨を相手に伝えるだけで解除が成立します。確実に伝えたことを証拠とするために内容証明郵便(配達証明付)で通知することが重要です。解除は催告と同時に行うことができます。必ずしも催告して相当期間経過後に改めて解除を通知する必要はありませんので、催告の際に解除の意思表示も行うことをお勧めします。
契約解除するための条件・手順

(2)契約解除の通知

(a)通知内容
催告と同時に解除通知すると手間を省くことができます。具体的な文面は以下のようになります。
【記載例:催告の場合】
未払い賃料○円を本書面到達後○日以内に支払うことを求める。

【記載例:解除の意思表示の場合】
期間内に支払がない場合には賃貸借契約を解除する。
(b)通知方法
・原 則
解除の通知は、後日紛争を防止するため、通常は、「配達証明付の内容証明郵便」で行います。内容証明郵便は通知内容を、配達証明は到達した日を郵便局が証明してくれますので、有力な証拠になります。
・賃借人不在で届かない場合
内容証明郵便は、直接手渡しする方法により行いますので、配達の際に賃借人が不在の場合、一定期間内に賃借人が受け取りにこないと差出人に返送されてしまいます。そこで、賃借人が受け取らない場合を想定して、「特定記録郵便」による郵送も同時に行うと効果的です。 「特定記録郵便」は、直接郵便受けに投函しますので、賃借人が不在でも返送されません。内容証明郵便のように郵送した内容や実際に受け取ったことまでは証明できませんが、少なくとも郵便受けに投函したことをもって、賃借人に到達したことを主張できるのです。
・賃借人でない別の第三者が住んでいて届かない場合
特定記録郵便でも、賃借人でない別の第三者が住んでいる場合、「宛所に尋ね当たりません」という形式で返送されてしまいます。この場合、転居先が判明した場合は転居先に通知しますが、転居先が不明の場合、実際に訴訟を行う必要があります。訴状の中で解除の意思表示を行い、「公示送達」という手段で賃借人に到達させることになります(民事訴訟法113条)。ただし、ケースによっては、訴訟前に簡易裁判所を通じて裁判所の掲示と官報に掲載して行う方法が必要なこともあります(民法98条)。
契約方法解除の通知
原則 内容証明郵便
賃借人不在で返送された場合 特定記録郵便
賃借人以外の第三者が住んでいる場合 賃借人の転居先判明…転居先へ内容証明郵便(配達証明付き)
賃借人の転居先不明…民事訴訟で公示送達

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2 建物明渡訴訟

催告兼解除の通知書を発送し、賃借人に届いたことが確認できたら、通知書で定めた相当期間経過するまで待つことになります。通知書に定めた相当期間経過しても支払が確認できなければ訴訟を提起することになります。

建物明渡訴訟の流れ

(1)訴訟提起

(a)訴状の提出
訴状を2通作成し、裁判所へ提出します。被告が複数いる場合、人数分作成しなければなりません。さらに、訴状には必要書類のコピーを訴状通数分添付し、所定金額の印紙・切手を用意します。
【必要書類】
・賃貸借契約書 ・解除の通知書(内容証明郵便
・賃貸物件の登記事項証明書
・賃貸物件の固定資産評価証明書(毎年4月1日に更新されますのでご注意)
・建築時の図面
・法人の代表者事項証明書
・履歴事項証明書等(賃貸人や賃借人が法人の場合)

※案件によって他に必要な書類が発生することもありますのでご注意下さい。


【収入印紙】
訴状提出時の収入印紙の計算式
上記計算式の金額 印紙代 上記計算式の金額 印紙代
10万円まで 1,000円 70万円まで 7,000円
20万円まで 2,000円 80万円まで 8,000円
30万円まで 3,000円 90万円まで 9,000円
40万円まで 4,000円 100万円まで 10,000円
50万円まで 5,000円 120万円まで 11,000円
60万円まで 6,000円 140万円まで 12,000円

※ 140万円を超える場合は裁判所ホームページをご確認下さい→http://www.courts.go.jp/saiban/tesuuryou/index.html
※ 司法書士が代理できるのは訴額140万円までの案件になります。


【郵便切手】
被告の人数、送達の種類・回数、裁判所によって異なりますが、最低でも5,000円以上必要です。詳しく裁判所へご確認下さい。

(b)期日調整
訴状提出後、裁判所から第1回の口頭弁論期日の調整の連絡がきます。だいたい訴状提出後1か月から1か月半くらいの日を指定されます。日程調整ができれば、期日の日時を記載した期日請書を裁判所へFAXします。

(c)送 達
第1回口頭弁論期日が決定すると、被告(賃借人)に対して、訴状複本及び第1回口頭弁論期日呼出状を送達します。通常、書留郵便の一種で被告の住所地へ郵送します。 配達の際に賃借人が不在の場合、一定期間内に賃借人が受け取りにこないと差出人に返送されてしまいます。その場合、再度送達することになります。裁判所は次に休日に送達しますが、休日でも返送されてきた場合、今度は就業場所に送達されます。 それでも駄目な場合、賃貸人側で居住状況を調査します。郵便受けの状況、郵便物の有無、表札の有無、電気・ガス等のメーターの状況、洗濯物、近所への聞き込み等を報告書として提出します。その結果、賃借人が明らかに住んでいる場合には「付郵便送達」、賃貸人が明らかに住んでいない場合には「公示送達」という方法をとります。 付郵便送達は、改めて書留郵便で賃借人の住所に送達します。この場合、賃借人が受け取らなくても発送のとき送達が完了とみなされます。 公示送達は、訴状を裁判所の掲示版に掲示する方法です。掲示日翌日から2週間経過をもって送達が完了したことになります。
訴状の送達の流れ

(2)口頭弁論期日

第1回口頭弁論期日では、まず、裁判官から「訴状を陳述しますか。」と確認されます。これに対して、「はい。」と答えれば、訴状内容を主張した取扱いになります。 賃借人が出廷している場合、裁判官が賃借人に対して、反論の有無、内容等を確認しますが、賃借人が出廷していなくても、賃貸人の訴状に対する反論を書面で提出していた場合(答弁書)、答弁書内容を主張したものとして取り扱います(擬制陳述)。 家賃滞納が3か月以上続く場合、裁判所も特に審理することもありませんので、結審して判決をもらうよう主張しましょう。


(3)判決

口頭弁論が結審すると、1〜2週間後の期日が指定されて判決が言い渡されます。判決は郵送されますので、裁判所に足を運ぶ必要はありません。判決は賃借人に判決文が送達された日翌日から2週間で確定します。この期間内で賃借人は控訴することができます。 この後、強制執行の手続きに移りますが、確定するまで手続きを進めることはできません。手続きを早く進めるには、あらかじめ訴状で仮執行宣言というものを判決につけるよう求める必要がありますので、ご注意下さい。


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3 建物明渡の強制執行

勝訴判決を得た後、強制的に荷物を搬出して賃貸人に退去してもらうには、強制執行の手続きが必要になります。いくら勝訴判決を得たからと言っても、強制執行の手続きによらず、賃貸物件の中に入って、強制的に荷物を搬出することはできませんので、ご注意下さい。

(1)必要書類の準備

勝訴判決を得た後、強制執行を申し立てるには、「執行文」と「送達証明書」を裁判所からもらわなければなりません。 「執行文」とは強制執行できる状態であることを公証するものです。勝訴判決は確定しているか仮執行宣言がついてあるものでなければなりません。 また、「送達証明書」は賃借人に送達されたことを証明するものです。従って、勝訴判決と賃借人に送達されていることが前提になります。

訴状の送達方法 判決の送達方法
通常送達 訴状の送達と同じ手順で送達を行います。
付郵便送達 通常送達を行った後に、現地調査することなく、付郵便送達を行います。
公示送達 事前に通常送達を行うことなく公示送達し、掲示日翌日に送達完了の効果が生じます(民事訴訟法112条)

(2)強制執行の申立

(a)申立て
訴状を2通作成し、裁判所へ提出します。被告が複数いる場合、人数分作成しなければなりません。さらに、訴状には必要書類のコピーを訴状通数分添付し、所定金額の印紙・切手を用意します申立書を作成し、賃貸物件の所在地を管轄する地方裁判所へ提出します。申立ての際、執行官に対する予納金が必要になります。
【必要書類】
・判決正本(確定証明書付)又は仮執行宣言つき正本(執行文付与)
・送達証明書  

※ 案件によって他に必要な書類が発生することもありますのでご注意下さい。

【予納金】
相手方の人数、裁判所によって異なりますが、数万円発生するのが一般的です。

(b)執行官との打合せ
申立後、執行官と打ち合わせを行います。実際に会ったり、電話で打ち合わせしたりします。実際に現地へ赴く日時や二音つを搬出する業者(執行補助者)を決めたりします。執行補助者へ支払う報酬も準備しなければなりません。

(3)明渡催告

実際に現地へ赴きます。現地では、物件の占有状況を確認した後、引渡し期限と強制執行を行う日を公示書に記載し、物件内に貼り付けます。執行官・立会人・賃貸人又は代理人・執行補助者・鍵技術者が立会います。 この際、具体的な物件内の荷物の取扱いを決めて、執行補助者の具体的な費用が算出されます。


(4)断行日

執行官が決めた引渡期限までに退去しない場合、実際に強制執行を行います。引渡し期限は明渡し催告があった日から1か月を経過した日以降でなければなりません。  執行補助者が物件から荷物を運び出し、鍵を交換して完了になります。運び出された荷物は執行官が指定する保管場所で1か月程度保管され、賃借人が引き取りにこない場合は売却又は破棄されます。


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